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嶌田井書店

風の通る或る町に、稀にしか辿り着けない書店がある。

真一文字に切り裂くように

こんにちは。嶌田井書店スタッフの蒼井灯です。

秋の東京文フリではフリーペーパーのデザイン等を担当しています。

 

今回はそのフリーペーパーについて。

テーマは『旅』。シンガポール在住の河嶌レイさんと、京都在住(企画当時)の篠田くらげさんがそれぞれ約1200字のエッセイを寄せたものになっています。

ある程度の長い期間その土地に住み、けれども完全に住人とも言い切れない、そんな絶妙の距離感で描かれた2つのお話、楽しみにされていてくださいね。

PR動画はこちら。


LITTLE INDIA - Singapore 2016 Oct.

 

紙面のデザインは、当初「新聞っぽい」ものにしよう、という話になっていました。けれどもそこからもうちょっと捻ってはと考え、そうだ、2つのお話を繋ぐキーワードがあると良いかなと思ったのです。そこで浮かんだのが、上の動画にもある言葉。動画制作の終盤にレイさんが「思いついた!一言入れたいです」と入れられたものなのですが、フリーペーパー本体にももちろん通じるものとなっていました。

それがこの文句。

 

あなたの毎日に、旅はありますか。

 

 * 

 

この言葉は、共感できる人と、刺さる人とがいると思う。

 

私はと言えば、「ねえよ」と半ば叫びながら、この文字を画面に叩き入れていた。

 

東京に生まれて東京に育った。覆面をかぶった人が集まり、たいていのものが揃う、雑多で醜悪な街。馬鹿な私は便利さに溺れてそこから出ようとしなかった。学校の英語の授業は殆どさぼって保健室で過ごした。なんてとんでもないことをしたんだろう。他にも数知れず分岐はあったのに、踏み出さなかった。だらだらと過ごした。どこかに行きたいとすら思っていなかった。気が付いたらどこにも行けなくなっていた。他のところで生きていきようがない、自身が忌み嫌う東京の街以上に醜悪で、そして脆弱なものになっていた。

 

旅?ねえよ。どうせどこにもいけねえよ。ほっといてくれよ。

 

そう歯ぎしりしながら、1ピクセルずつその文字列を動かして位置を調整した。

 

デザインの経験もセンスもない人間が作るのだから、とりあえず心を動かしながら作るしかないと思った。だから『旅』をテーマに掲げた文章を書ける二人へのどうしようもない羨望と、翻って自分への憎悪とに燃えながら、いちばん自分に刺さる形を探して、記事や写真を配置しました。

はたしてそんなひとりよがりの思い入れが紙面に出るものか、出たところでそれが吉なのか凶なのかも、わからないけれど。

 

 *

 

旅を寝床とし、枕とし、様々な景色に親しんだ、そんなあなたにも。

それゆえの寂しさや悲しみと共に生きている、そんなあなたにも。

私と同じように旅という言葉を見るだけで後悔に切り裂かれるようなあなたにも。

このフリーペーパーを手に取っていただけますように。

 

 

おしまい。



(蒼井灯)

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