京都の街とフリーペーパーと
書店員の篠田くらげです。よろしくお願いします。
今回配布予定のフリーペーパーでは京都を担当しています。埼玉出身の私にとって京都は異郷です。
あなたは旅人ですか?
私はずっと旅をしてきたような気がします。学生時代には生徒のグループがあったりするものですが、私はあえて特定のグループには入らず、いくつものグループをふらふらと漂っていました。くらげの名は伊達ではないのです。
どこにでもいて、どこにもいない。それが私です。それでいい、と思っていました。「でもそれは違いました。私は愛する人と出会い、相手を守ってひとつのところに根を下ろして生きる幸せを知りました」と書けばある意味ではハッピーエンドです。でも現実はそう簡単にはいかないものです。
そんな中に京都です。京都は実は、旅人の街なんだと思います。千年の都。平氏、源氏、信長、秀吉、家康、数限りない英雄たちが京都を目指し、生き、死んでいきました。名を残さなかった庶民たちもやはりこの街で生きていました。そんな中、ずっとあったのは京都の街だけ。ならば。京都人は仮住まいとしてあの街に生きているのです。あるのはただ、京都という土地だけなんです。
ただ一つ変わらないのは、祈るということ。庶民も権力者も、決して届かない仏に祈る時だけは等しく同じ姿だったような気がします。だからあの街にはあんなに寺があるのです、きっと。
今回のフリーペーパーでは、そんな京都の街に少しだけ触れていただきたいと思っております。嶌田井書店、旅の途中にふらりとお寄りください。そこで私たちは、あなたを待っています。
(篠田くらげ)
長い道のり
嶌田井書店ができるまで
ようこそ嶌田井書店へ。書評担当篠田くらげでございます。
もしかしたらご存知かもしれませんが、嶌田井書店は「化身の森製作委員会」という名前でスタートいたしました。小説&映像作品「化身の森」を作るにあたって、小説の朗読担当として呼ばれたのが私だったのです。「化身の森」は私たちの自信作。河嶌が小説を、蒼井が音響技術を担当しています(身内のつもりなので呼び捨てにしています)。これは三人の力が合わさった、渾身の一作です。今回の文学フリマ東京にも既刊として持って行きます。ぜひお買い求めくださいませ。予告編もあります。
「化身の森」は皆様にご好評をいただいて店員一同喜んだのですが、せっかく集まったメンバーをこのまま解散させるのも勿体ない。そこで発展的に誕生したのが嶌田井書店なのでした。
今回の新刊は河嶌の写真集と私の書評集。個人プレーのように思えるかもしれませんが、水面下ではそうではありません。スケジュールからお店のディスプレイまで、ことごとく会議で決まっております。だからしょっちゅう3人で話しています。真剣な打ち合わせあり、突然入る雑談ありで、楽しくやっております。たとえば河嶌の写真集にも蒼井や私のアイディアが入っていますし、私の書評集も然りです。
そして今回力を入れたのがなぜかフリペ!3人の全力と共同作業がここに詰まっております!!なんでこれがフリペなのか。むしろ看板商品なのではないか。そのように首を傾げながら作ったフリペ。ぜひご覧いただければ幸いです。
時には仲良く、時には激しく議論しつつ運営している嶌田井書店。皆様のお越しを心よりお待ち申し上げております。
(篠田くらげ)
真一文字に切り裂くように
こんにちは。嶌田井書店スタッフの蒼井灯です。
秋の東京文フリではフリーペーパーのデザイン等を担当しています。
今回はそのフリーペーパーについて。
テーマは『旅』。シンガポール在住の河嶌レイさんと、京都在住(企画当時)の篠田くらげさんがそれぞれ約1200字のエッセイを寄せたものになっています。
ある程度の長い期間その土地に住み、けれども完全に住人とも言い切れない、そんな絶妙の距離感で描かれた2つのお話、楽しみにされていてくださいね。
PR動画はこちら。
LITTLE INDIA - Singapore 2016 Oct.
紙面のデザインは、当初「新聞っぽい」ものにしよう、という話になっていました。けれどもそこからもうちょっと捻ってはと考え、そうだ、2つのお話を繋ぐキーワードがあると良いかなと思ったのです。そこで浮かんだのが、上の動画にもある言葉。動画制作の終盤にレイさんが「思いついた!一言入れたいです」と入れられたものなのですが、フリーペーパー本体にももちろん通じるものとなっていました。
それがこの文句。
あなたの毎日に、旅はありますか。
*
この言葉は、共感できる人と、刺さる人とがいると思う。
私はと言えば、「ねえよ」と半ば叫びながら、この文字を画面に叩き入れていた。
東京に生まれて東京に育った。覆面をかぶった人が集まり、たいていのものが揃う、雑多で醜悪な街。馬鹿な私は便利さに溺れてそこから出ようとしなかった。学校の英語の授業は殆どさぼって保健室で過ごした。なんてとんでもないことをしたんだろう。他にも数知れず分岐はあったのに、踏み出さなかった。だらだらと過ごした。どこかに行きたいとすら思っていなかった。気が付いたらどこにも行けなくなっていた。他のところで生きていきようがない、自身が忌み嫌う東京の街以上に醜悪で、そして脆弱なものになっていた。
旅?ねえよ。どうせどこにもいけねえよ。ほっといてくれよ。
そう歯ぎしりしながら、1ピクセルずつその文字列を動かして位置を調整した。
デザインの経験もセンスもない人間が作るのだから、とりあえず心を動かしながら作るしかないと思った。だから『旅』をテーマに掲げた文章を書ける二人へのどうしようもない羨望と、翻って自分への憎悪とに燃えながら、いちばん自分に刺さる形を探して、記事や写真を配置しました。
はたしてそんなひとりよがりの思い入れが紙面に出るものか、出たところでそれが吉なのか凶なのかも、わからないけれど。
*
旅を寝床とし、枕とし、様々な景色に親しんだ、そんなあなたにも。
それゆえの寂しさや悲しみと共に生きている、そんなあなたにも。
私と同じように旅という言葉を見るだけで後悔に切り裂かれるようなあなたにも。
このフリーペーパーを手に取っていただけますように。
おしまい。
(蒼井灯)
第二十三回文学フリマ東京お取り扱い書籍のご紹介
11月23日(水祝)の文フリ東京に、私たち嶌田井書店が出店します!
ブースは2階エ-25,26。
新刊は写真集、書評集ほか、前回文フリで好評をいただいた既刊もあります。
シンガポール・京都をテーマに書かれた新作エッセイフリペも!
奮ってお越しくださいませ。